月の葉っぱ

夜明けはもうすぐそこに。

亀メモ

僕はここで生きていく。

 

僕の知らない世界で、どんなにきれいな蝶や植物があっても、僕はここで生きていく。ここで生きていくしかない。

 

僕が亀でなかったら。

 

 

きっと彼女のことだから、僕が近くに来た蝶を眺めていたり、雨を見つめていたりする様子をほのかな、のんびりとした亀日和と名付けながらまとめていたりするのだろう。

だが、僕はここにきたものを受け取るしかないんだ。太陽の光も、雨も、近くを飛ぶ虫も、全て受け入れていくしかないんだ。それが不幸なのかは分からない。僕にはここで生きてきて、これからもここで生きていく、それしか僕は経験することができないんだ。彼女は僕を見るたびに笑ったり、真顔で見つめていたり、面倒な様子を見せることがある。でも僕は何も思わない。僕はここで生きていくしかないから。僕には表情がないかもしれない。表情の持ち方も、表情の効果も僕は知らない。でも僕には表情は必要ない。この箱の中で、僕の表情を受け取るやつがいるだろうか。いや、いないんだ。僕は一人だ。今までも、これからもずっと一人だ。この中で自分しかいない。そうだ、誰もいないから僕は僕を知らないんだ。僕がどんな格好をしていて、僕がどんな性格で、僕はどんな顔をしているのか。鏡なんて見たことないし、もし見たとしてもそこにうつる物体が自分だなんてどうして言えようか。この世界に僕と同じ種がどこかにいるのかもしれない。でも会うことはない。友達が欲しいかなんて聞かれても分らない。僕には友達がどんなものなのかも知らないし、友達がいることで僕にどんな影響をもたらすのかも知らないから。そもそも僕には友達なんていないし、これからもできないんだ。そんなこと聞かれて、考えてみることもおかしいと思わないかい。僕には何かを持つ必要がないんだ。生きる理由も死ぬ理由も何も持たない。僕はここで生きていくしかないんだ。生きる目的に悩む人間と比べると幸せに思えるかもしれない。でも、僕には生きるしか道がないんだ。それで幸せと言えるだろうか。人間はもっと、僕のこの箱の中しか知らない世界以上に、外へ出て行けるのだろう?生きるという一つの選択肢しか持たない僕と比べてみなよ。君たちは比較が好きなんだろう。ほら、僕と比べて選べるということは幸せだろう。だからといって僕が不幸だとは言い切れないよ。

 

 

僕が外へ出て行くチャンスはあったんだ。僕が外へ出れば、僕の友達に会えるかもしれなかったんだ。外へ出たほうが幸せだったかって?そんなこと僕は知らない。

 

だが、ぼくは亀だ。

 

 

 

もし僕が亀でなかったら。

もし僕が人間だったなら。

もし僕がそれ以外のものだったら。

 

僕は何も知らない。そしてこれからも何も知らない。

僕はここで生きていく。

 

※ずいぶん前に書いたみたものを見つけたので投稿してみました!